折れない心 ーrescue J guy's blogー

元航空自衛隊のRESCUEパイロットが自分のやりたいこと、自分が何ができるかを発見できるようになる、折れない心(レジリエンス)について4つの原則を中心にお話ししてます。また、航空関連ニュースに対しての個人的な感想や意見もアップしています。

空自ヘリ(浜松救難隊) 夜間洋上救難訓練について知っておいて欲しいこと(私見)

29年10月17日18時頃、航空自衛隊浜松救難隊の救難ヘリコプターが浜松沖で墜落(現時点での状況)し、機体の一部が見つかっているが、乗員4人の行方が分かっていません。

 

当該機の機長は、私の同期生ということもありますが、もともと搭乗していたヘリコプターであり、他人事ではないというのが正直なところです。

 

現時点での事故原因は、限られた情報の中から想像できることはできるのですが、まずは救難隊が夜の訓練でどれだけ困難なことをやっているかということを知って欲しいと思います。

 

www.sankei.com

 

報道の内容からの推測

 

当該ヘリコプターは、17時51分に浜松基地を離陸し、17時57分での管制機関との交信では異常を知らせるものはなかったと報じています。

 

ここで何を話したかは明らかになっていませんが、離陸後6分であれば、海岸線から10kmは離れています。

船などがいなく安全と判断したならば高度を下ろして訓練の準備に入るはずです。

ですので、管制機関には「低高度に降りる」という内容を通報したと推察します。

 

なぜ低高度に降りると通報するかというと、救難訓練を行う高度では浜松基地のレーダーから映らなくなるから、事前に通報することにより管制機関に何をしているかを知ってもらうために行うことが多いです。

 

18時02分にレーダーロストした、と報道でありますがこれは低高度に降りていれば当たり前の話です。

 

訓練機は、訓練海域に到着する前に通常であれば、気象状況を確認しながら飛行し、問題なく訓練ができるかどうかを判断しその旨を通報します。

 

これは、18時02分のレーダーロストの前後で必ず行われている基本事項です。

 

また、訓練を開始する時に、訓練開始の通報も行います。

 

訓練機は、その後最後の通信から30分間隔で異常の有無を部隊に通知します。

この30分間隔の通信が途絶した時に、初めて何かあったかもしれないと部隊は判断します。

 

山中であれば無線が届かなくなる可能性もありますが、今回の場合、基地から30km(約15NM)ですので、無線が通じにくくなる時があっても届かなくなることは少ないです。また、同時に在空している訓練機がいれば、その訓練機から安否の確認を行います。

 

これが、まずマスコミ報道からではわからない訓練時の状況です。

どの時点で低高度に降りたのかは、おそらく把握されていると思いますがレーダーロストすることは今回の訓練では当たり前の話です。

もし、レーダーに映る高度(おそらく300mくらい)を飛行していて、航空機に不具合が発生して墜落したとすれば、その間に何らかの異常を知らせることは必ずやります。

ただ、通常通り、低高度に降りて訓練を開始していたとなれば、高度は500ft以下で洋上にホバリングする以前であれば、200ー300ft(約60ー100m)に降りていることが多いです。

 

もし、この高度で機体に飛行継続が困難なトラブルが発生した場合は、航空機のコントロールをすることだけしかできない可能性があります。100mの世界記録でさえ約9秒です。それ以上の速度で飛行している航空機には残される時間はわずかであることが想像できると思います。

 

夜間の洋上救難訓練

 

夜間飛行は、どの機関でも行われている訓練ですが、洋上ではどのような環境であるかを理解していない人も多いと思いますので、フリー素材の海の写真を見ながら少しだけ説明します。

 

まずは、こんな海を想像できませんか。

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この写真は、海岸線も写っていて海と空の境界線がわかりやすくなっています。

 

次の写真です。

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この写真(イメージ)では、まだ明るいこともあり何となくですが海と空の境界線がわかります。この状態でどんどん暗くなったらどうなるかというと。

 

 

こんな状態です。

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月明かりもなく、街灯りもない、周辺に船もいない海はこんな状態です。

 

こんな中、遭難した船や人を捜索して救助する訓練を行っています。

 

終わりに

 

まだまだ詳しくお話しすればきりがないのですが、今回の訓練内容が夜間暗視装置(NVG)を使用していれば状況は変わってきます。一部報道では、夜間暗視装置を搭載し、とありましたがそれを使った訓練かどうかまではわかりません。

 

細部の状況が明らかになるかどうかわかりませんが、救難隊は日々みなさんの知らないところで過酷な訓練を行っているということを知っておいてください。