はじめに
前回の(私的感想)その1に質問が在りました。
コメントでお返事しているのですが、その内容を踏まえて今回のその2を綴っていこうと思います。
なぜ自走装置が切れたことに、クルーが気づかなかったのか
(以下、質問の抜粋)
> 自動操縦が切れ、警報にクルー4人が気づかないとはちょっと信じられないのですが。疑問に感じるのは私だけでしょうか?機長も副操縦士もベテランです。後ろに乗っていたクルーもベテランです。4人揃って警報に気づかないとは、信じ難いとゆうのが率直な意見です。 4人の目、耳があってそのような事態に陥るのか?まして着陸前で、あのような天候で後ろの搭乗員も気を張っていた事と思います。
この疑問に関して、自分の経験をもとにお話ししていきます。
まず初めに、私はLRー2には登場したことがないので、具体的な警報音やシステムに習熟していないことをお詫びします。
固定翼機の経験から
私は、ヘリコプターに搭乗する前は、固定翼機には搭乗する機会もありました。
また、パイロット候補生では、ビジネスジェット機を操縦していましたので、概要は理解しています。
警報について
今回の事故調査報告書を見ることができないのでなんとも言えませんが、ボイスレコーダーに警報音が残っていたと聞いています。
警報音には、おそらくパイロットがその音に気づきホーンカット(警報音の解除)していると思います。
うるさいですからね。
そうなんです、うるさいんです、警報音というものは。
だから気づくはずです。
でもここで一番恐ろしことが起きます。それは、
音をカットすることを無意識にしてしまうことがあるという事実なんです。
これは、今回の搭乗員が無意識にしていたと言っているわけではなく、よく起こることとしてお聞きください。
自分にもその経験があります。
航空自衛隊での事例
航空自衛隊はほとんどが固定翼航空機です。
ですので、着陸前には必ずギアをおろします。
訓練機には、ギアを降さずにパワー(出力)を絞ると警報音がなるシステムのものもありました。
これは、着陸前にエンジン出力を下げた時に
「ギアが降りてませんよ」
と教えてくれる、最終的な安全装置の一つです。
日本における事例映像先のリンクです。
外国の小型機での映像がありましたので参考にしてください。
でも、このシステムがあっても、ノーギアランディングをしてしまう事例はあるんです。
なぜかというと、先ほど言った無意識にカットするということ。
(上記のリンク先では、警報音が鳴ったまま着陸してました。)
着陸前は色々な操作に加え、管制官との交話、さらにはクルー(教官)との会話が同時に進行している時期でもあるのです。
ですので、ギアを降ろそうとしていた時に、他の会話が入ってくるとギアを降ろすことを忘れてしまいます。
そして、本人はギアを降したつもりの記憶だけ残っているので、最終進入中に警報音が鳴っても、何で鳴ってるんだろうと思いつつ、着陸操作に専念する為に、半自動的に警報を解除してしまう。
または、先ほどのリンクのように
「この音は何だろう?」
と、疑問に思ったまま着陸してしまうかもしれません。
以上のことは、起こりうるだろう、という観点で書きましたので事実とはことんると思います。
実は、
実は、航空自衛隊でも訓練生だけではなく、実戦部隊のパイロットでさえノーギアで着陸してしまった事例はあります。
警報音だけではなく、視覚でもギアが降りているかどうかを確認する計器もありますし、その計器を確認してから着陸するという手順も決まっています。
ですが、先ほども言った通り、パイロットは着陸前に様々なことを同時に処理しています。
それは操作だけではなく、任務や次の行動についてもです。
ですので、警報音がなっていることはもちろん認識していると思いますが、警報音が鳴ったことへの対応をしているという保証にはならないんですね。
ヒューマンエラー
これは、確率的に起きているという話ですので、現在飛んでいるパイロットの方で、そんなことはあり得ないという方は多くおられると思います。
でも、それでも起きるのがヒューマンエラーなんですね。
ヒューマンエラーが起きないように、様々な教育や施策が取られていると思いますが、根絶できてはいません。
人が行うことですから。
オートパイロットの解除
推測1
今回の事故調査では、オートパイロットを解除したことが事故原因になったという内容だと思います。
(事故調査書を読んでませんので、間違いがあったら教えてください。)
これも情報元がネットニュースですので、本当のことかわかりませんが、墜落した時の方位が函館方向への旋回方向と反対であったという記事を見ました。
ここから推測できるのは、オートパイロットを誤って、または意図的にOFFにした後、なんらかの要因(管制官との交話など)で、オートパイロットをOFFにしているという認識がなくなり、雲中を緩やかに反対側に旋回しながら、機首が下がっていくことに気づくのが遅れたのかもしれません。
推測2
オートパイロットの解除をしたのち、空間識失調に入ったのではないか。
空間識失調(バーティゴ)は、対処法は訓練で行なっていますが、ひどい状態になると操縦することは非常に困難になります。
オートパイロットがどの時点でOFFになったかわからないのですが、旋回中にOFF になり、その時点で空間識失調に入っていたのであれば、操縦は極めて困難です。
でも、今回の事故での可能性は少ないと思います。
空間識失調に入った時は、副操縦士に操縦を渡すか、オートパイロットを入れるように訓練しているはずですから。
私的結論
やはりなんらかの要因でオートパイロットをOFFにした警報音を無意識にカットして、その後はオートパイロットが入っているものとして認識していたのではないかと想像しています。
副次的要因
あとひとつ、直接的な原因ではないとは思いますが、クルーの上下関係です。
副操縦士が階級上位の場合、微妙な関係になる場合があります。
これは、階級ではなくて、技量レベルで機長を決定せざるを得ない時に発生する権威勾配の逆転です。
機長の階級の方が低くなるということです。
軍隊は、経験で統率されるものではなく、階級で成り立っている世界です。
階級が上がるごとに、それ相応の技術や経験を下級者は期待しています。
しかし、これが逆転した時にその判断基準が複雑になるのです。
これは、パイロットに限らずどの職場でも起こっていると思いますが、瞬間瞬間の判断を求められる航空業界ではシビアな問題になる時もあります。
長々と思いつくままに書いてしまい申し訳在りません。
疑問が少しでも解きほぐれたら嬉しいです。
(前回のブログ)
↓↓↓↓