平成29年5月15日、北海道函館空港へ災害派遣任務中に陸上自衛隊連絡偵察機 LRー2が墜落しました。搭乗していた隊員の皆さんのご冥福を改めてお祈りします。
昨日(平成29年9月13日)事故調査報告が公表されたことをマスコミ報道で知りました。
事故原因について
私見の前提
今回のブログの内容は、1次情報である事故調査報告書を見ずに、マスコミ報道からの情報から書いています。ですので、的外れになっている可能性があることを読まれている方はそのあたりをご考慮ください。
自動操縦装置について
自動操縦装置に起因する事故で思い出すもの
平成6年に名古屋空港(現県営名古屋空港)にて、中華航空のエアバス機が着陸時に墜落した事故です。以下を参照してください。
この時の事故原因も、自動操縦装置に関わるものです。
今回の事故原因とは異なりますが、何が言いたいかというと、
「自動操縦装置はパイロットの労度を軽減させ、複雑な作業を的確に行わせることができる」
が、
「パイロットが適切に操作、管理しなければ事故の原因になる」
ということです。
自分の体験談
パイロット学生時代
私は、訓練生時代にはビジネスジェット機での訓練で、自動操縦装置を使った訓練を行ったことがあります。ただ、自動操縦装置の使用自体を熟知するというより、どんなものかを体験し以後の任務に生かすという程度でした。
ただ、その時感じたのは、機能を熟知して適切に使用すれば、なんて便利なものなんだろうというものです。
その時も感じた通り、「適切」に使用すれば、なんですね。
航空自衛隊救難隊ヘリコプターの自動操縦
その後、私はヘリコプターパイロットになりました。しかも旧型機を保有する部隊への配属でしたから、皆さんが想像するような自動操縦装置とは無縁の世界で操縦の道を極めていきました。
当時、搭乗していたのはV−107(バートル)という航空機で、開発当初は自動操縦装置は何もついてませんでした。
昭和47年に宮崎県沖で米海軍機が墜落、救助に向かったV−107が夜間洋上進入中に墜落したことをきっかけに、姿勢維持、簡易的な自動アプローチ、気圧高度維持、自動旋回、などの機能が追加装備されるようになりました。
その後、UH-60Jの導入により自動操縦装置はさらに進化し、V-107に装備されていた機能よりもさらに高度な自動操縦装置が装備されるようになりました。
退職する直前には、新型のUH-60Jが導入されさらに便利な機能が付加されてます。
最も危険な、夜間洋上救出
自動操縦装置は一切使わないマニュアル操縦を徹底的に先輩パイロットから叩き込まれ、なんとか安全にできるようになっていました。この時は、毎回大汗をかきながら、実際の救助現場を想像しながら、いつ出動しても任務を安全に遂行して、クルーと遭難者を無事に基地に返すことのみ考えていました。
それが、新型機の自動操縦装置を使用し始めると、今までの苦労がなんだったのか・・・いとも簡単に夜の海でホバリングしてくれるようになりました。
失敗
でも、その時にやはり自動操縦装置の操作を誤って、失敗したことがあります。
当時、UH60Jの機長訓練をやっている最中で、航空機に関しても、自動操縦に関しても、まだまだ経験が少ない時でした。
それは、進入中にゴーアランド(進入を中止し上昇する)モードに入れる必要があった時です。
進入開始点を誤り、目的の場所でホバリングできないと判断して、進入のやり直しを決意しました。
右手の操縦かんの親指であるスイッチを押すことにより、上昇していくのですが、その時は押しても上昇せず、
なんで!? と、若干の混乱状態。
何回もスイッチを押してる間に、操縦桿に自分の操作を加えてしまい、コンピューターが規定値以上の機体運動を感知して、警報が点灯しました。
その時は、自分の操作で警報がついたかどうか判断できない状態でしたので、訓練を中止し基地に帰りました。
地上に降りてから冷静に操縦桿を触ると、その原因がわかりました。似たようなスイッチがすぐそばにあり、そのスイッチを何回も押していたのです。
LRー2の事故に関して
自動操縦装置の解除
今回の事故調査の報告では、ボイスレコーダーの解析によりレーダーから機影が消える前に自動操縦装置が解除された時に発する音が記録されていたそうです。
この、自動操縦装置を解除するスイッチがどこにあるのかというと、パイロットがすぐに操作できるように操舵輪(操縦桿)の指が届くところにあります。(全部ではないと思います。)
また、パイロットが管制官と無線で話すときのスイッチも、すぐに操作できるように操舵輪(操縦桿)についています。
ですので、間違って押してしまいやすいところにあるのは事実です。
事故は、複合した条件が重なり起きる
今回、事故調査報告書の中で種の事故原因を自動操縦装置の解除に気づかなかった、というようなことが発表されていますが、単純に考えると、そんなことが事故原因になるの?って思いませんか。
自動操縦装置が間違って解除されても警報音が鳴るようになっているのですから。
でも、自動操縦装置の操作だけをパイロットがしているのであれば気づきますが、人間意識していなければ、音なんか聞こえないことが多くあります。
例えば、家で好きなテレビ番組を見ている時に、奥さんから何度呼ばれても返事をしない旦那さんっていませんか?これ、パイロットでも聞こえなくなっちゃいます。
そうなんです、他のことに気を取られていると、聞こえなくなってしまうことはあるんです。
今回の任務
陸上自衛隊が唯一保有する固定翼機、LRー2。その操縦士も少なく、計器進入する訓練機会も経験もそんなに多くないと思います。(民間旅客機、航空自衛隊と比べて)
その上、災害派遣での飛行中、間も無く函館空港に着陸、着陸したのちの帰投計画、天候が悪い、クルーの権威勾配が逆転などの状況にある中、同時並行的に様々な判断をしなければならないのです。
しかも、計器飛行をしながら。
計器飛行状態を車で例えると
濃霧で視界が10mくらいなのにカーナビの道路標示だけを見て、速度を守って運転するようなものです。
肉眼では、どこまでが道路か判断できない状態で、カーナビ上の道路にいるように運転することって、想像したことありますか?
車は2次元ですが、飛行機は3次元です。
経路を守りながら操縦するのは当たり前で、高度も守りながら操縦するのです。
時には高度を下げながら旋回することもあります。
今回はそんな最終進入に近い場所で起きていると思います。
自衛隊パイロットの能力
自分は、やって当たり前、できて当たり前、と思っていたパイロットの能力は、一般社会では当たり前ではなかったという、当たり前のことを最近実感しています。
操縦しながら、次の任務のことを考え、そしてクルーとも話して一つの任務を達成する。そんな当たり前のこと、それは、日頃の訓練で培われていたんだということです。
経験値だけで能力の比較はできませんが、経験していない人と比べられればよく理解できます。
終わりに
今回の事故原因が出て、パイロット個人の責任のようにも見えるのですが、逆を言うとそれくらい困難なことを日頃やっているということです。
また、パイロットも非常に困難なことをやっていることに、無自覚であるということ。
事故が起きて、その事故原因について分析して、同種事故が起きないように、パイロットが意識する。
それだけでもしなければ、お亡くなりになった方々に申し訳ないです。
責任問題は発生するのは致し方ないですが、空の世界に生きる人たちには、お亡くなりになった全ての方の経験を無駄にすることなく、今後も安全に飛行してほしいです。