折れない心 ーrescue J guy's blogー

元航空自衛隊のRESCUEパイロットが自分のやりたいこと、自分が何ができるかを発見できるようになる、折れない心(レジリエンス)について4つの原則を中心にお話ししてます。また、航空関連ニュースに対しての個人的な感想や意見もアップしています。

折れない心 社会編 長野県消防防災ヘリコプター事故から考える。〜他者を頼ることができて、初めて自立した自分に気づく〜

 

長野県の山岳事故

 

先日、長野県消防防災ヘリコプターが墜落した事故以降の状況をまとめて見ました。

まずは、長野県の山岳事故状況ですが、長野県警察の発表資料を見て見ました。

長野県内の山岳遭難発生状況(週報)/長野県警察

これによると、平成29年度は昨年度よりも山岳事故が多くなっているようです。近年のデーターだけですので、長期的な傾向まで分析していませんが、山岳地での事故は引き続き発生していることはわかりました。

 

長野県の対策

 

自己調査関連

マスコミ情報も新しいニュースしか出てこなくなったので詳細がわからないですが、機体の回収について方針が決まったようです。

www.sankei.com

機体を回収してわかることとには限度があると思いますが、事故原因が機体のトラブルであるかないかが判明すれば、期待を整備していた整備員の気持ちがすこし落ち着くのではないかと思います。

 

私自身も運航する側の人でしたが、事故の原因というのは直接的な原因と間接的な原因が複雑に絡み合って発生するものと思っています。

 

山岳事故・救助態勢の維持

 

長野県は、埼玉県と愛知県に応援協定を結ぶ調整を事故後に開始した模様です。

埼玉県とは、3月30日に協定が締結、

愛知県とは、GW前には協定を締結する方向で最終調整のようです。

www.sankei.com

 

 

また、実質的な対応には応援協定だけではなく、警視庁航空隊がGW中に長野県にヘリコプターを応援派遣するようです。

  

flyteam.jp

 

各県、各機関の応援態勢が意味するところ

 

 当たり前のことではあるのですが、長野県の山岳事故対処機能が低下している状態ですので、そこに対して支援できる機関等が支援依頼に基づき応援するということです。

 本来であれば、多くの山岳を管轄する長野県の責任で自治されるところです。そのために、長野県としては県警ヘリコプター航空隊と消防防災航空隊という2つの組織を維持運営してきました。

 知らない方も多いのですが、他県でも同様な態勢が取られているところが多いのです。でも、ヘリコプターがあればいいというわけではない、ということを認識しているのは関係者だけだと思います。

 

ヘリコプターの性能を決める2つの要素

 

ヘリコプターそのものが持つ能力

これを理解するためには、乗用車をイメージしていただければいいかと思います。

 今度、みんなで旅行に行く時に車で行くことになったとします。誰が車を出すかを決めようとした時に、K君が「俺が出すよ」と言ってくれたとします。旅行の出発日に集合場所に現れたK君が乗ってきたのは、軽自動車。実は仲間は4人、荷物も多く車内は人と荷物で満載状態。運転席からルームミラーを見ると荷物しか見えない状態です。まぁ、なんとかなるかと思い出発したところ、山道で上りの連続。エンジンが悲鳴をあげながらなんとか登り終えたものの、皆は一様に疲れている模様でした。そして、そこにきてガス欠の恐れが・・・。いつも以上に過積載であったため燃費が著しく低下していました。なんとかガソリンスタンドまで到着して一安心。目的地へ向かいました。

 旅先で綺麗な女性グループと出会ったK君一行、次の目的地も一緒とのことでしたので、一緒に行くことに。でも、ここで問題が発生。女性グループの車は、国産高級車でK君の軽自動車とは段違いの走行性能。気の利く女性グループは、クルマの座席に余裕があるのでK君の車から自分たちの車に乗ったらどうかと提案され、運転手のK君以外は皆女性グループの車へ。K君は、荷物のみを乗せて女性グループの車を追いかけることに・・・・

 

 つまらない想定だったかもしれませんが、同様なことがヘリコプターの世界でも起きています。

 洋上を航行中の船舶で複数人の怪我人が発生し、早急に病院へ搬送しなければならないという状況は多くあります。この時に、主たる対応は海上保安庁が行うのですが、先ほどのK君の状況と同じく、ギリギリ救助できるヘリコプターの大きさであるかもしれないけど、燃費が悪くなるので航空基地と船舶の往復ができない!ということが発生します。そんな時に、自衛隊のヘリに応援要請がくるのです。

 また、山菜採りに出かけて帰ってこないお婆ちゃんの捜索をある県警ヘリコプターが行なっていました。運良く発見したものの、そのヘリコプターでは救助できるパワーがなく、結局自衛隊に応援要請。

 これは、よくあることです。自衛隊保有するヘリコプターは、有事を想定して導入されるので性能が良いものが多いです。でもお値段もかなりします。最近では、消防防災ヘリコプター、警察ヘリコプターなども高性能ヘリコプターを導入してきましたので、自衛隊が応援することも昔に比べたらかなり減りました。

dd.hokkaido-np.co.jp

 

ヘリコプターパイロットが持つ能力

 もう一つ、大事なのはヘリコプターの性能を最大限に発揮させるためのパイロットの存在です。

 パイロットです!というとパイロットではない人からすればなんでもできる人と思われがちですが、免許が一緒でも持っている能力というのは全然違うものです。

 自衛隊パイロットだけ見ても得意分野が大きく違います。

これに関しては以前に書いたブログを参照してください。

 

www.orekoko.com

 

私もプロの救助パイロットでしたので、すべてのことに精通していなくてはならなかったのですが、やはり限界があります。

それは、訓練環境です。

僕は比較的、高山岳地に近い基地での勤務でしたので、山の訓練も海の訓練も均等に行なってきました。でも、経験していないのが、北国での飛行訓練です。もちろん北海道でも訓練をした経験はありますが数回でしかも秋。雪上でのホバリングは、色々な意味で工夫が必要なんです。これは、経験している人にしかわからないと思います。冬になったらこの場でその工夫がなんなのかをお伝えしたいと思います。

 

自分の能力で足りないと思った時に

 

 今回、長野県はGW中の山岳事故や山岳火災での能力が不足すると見て、各機関等に応援をしてもらうことを決めました。そして、埼玉県と愛知県に応援を依頼して、警視庁からもGW期間に応援をもらえることになりました。このニュース報道を見て、担当者の方々は大変な調整をされたんだと思います。県が違えば運用に関しても考え方が違うので、担当者はりん議を通すのに苦労したはずです。

 

 このニュースを見て感じたのは、自分たちの身の回りでも、もっとこのような支援態勢があれば助かる人が多くいるということです。

 

 仕事において、自分の持っている仕事が多くなり、とてもじゃないけど一人では処理できなくなった時に、能力に余裕のある人に

「支援してください」

と一言言えるかどうか。この一言が自分から出せるようになった時、その人は自立することができている、言えると思います。

 自立というと、すべてを自分だけの力で行わないといけない気がしますが、そんなことができる人なんて、そうそういない!ということに気づくことが大事だと思います。

 

自立というキーワードを考えた時に、

なんでも自分でできる、というマインドから

自分のことをよく理解して、自分ができないことを理解している、というマインドにシフトしませんか。

 

自分ができないことを理解できれば、できることが明確になる。そして、できないことはできる人に支援してもらう。

 

さらにここに大事なことが。

自分ができることが明確になれば、そのできることで他者を支援できませんか?ということ。

 

自分にとって当たり前の能力、ノウハウが、他者にとってはお宝級のものであることが多いのです。

 

だから、自分をよくしりできることを認知、認識することができたら、まず、他者を支援することから始めてみる。それが、回りに回って、自分が必要な支援を受けられることに変わってくると思います。

 

まとめ

 

今回は、埼玉県と愛知県が支援の手をさしのべましたが、これは長野県ができないことを把握していたからこそです。もし、長野県がプライドが高く、警察ヘリコプターだけでなんとかできます!って言い始めたら、誰も支援の手を差し伸べることはできないですよね。

まずは、自分のことをよく知り、できることを認識する。そうして、わかったできないことはできる人から支援を貰えばいい。

でも、その前に必要なことは、まず自分のできることを支援していこうというマインドです。

大きな原則論

 人は本気の支援をした相手から出ないと、本気の支援を受けることはできない。

 本気の支援をしたからこそ、本気の支援を返していただける。

 

日々の生活で意識していきたい原則です。